浴衣がけで


浴衣がけで  石田 修治


 夏まっ盛りの夕方、久しぶりの浴衣がけで近所の銭湯へ行く。浴衣は花火大会を見に行く時も着るし、地蔵祭りにも着る。だが銭湯へ行くときの浴衣姿が一番好きだ。タオルを肩にかけ下駄を履いて歩くとき、心の中では”きまっている!”と、軽い優越感にひたれる。

 子供の頃、銭湯の帰りに祖母か母かどちらかに手を引かれ浴衣を着て歩いている自分を思いだし、面映ゆくなつかしくなる。暑い日中、聞分けよく浴衣を着ていたのは多分、ご褒美のアイスキャンデーのせいに違いない。

 銭湯の親父さんは、話し上手・聞き上手で、フロントで交わす会話はいつも楽しい。 又、客同士で好きな野球談義を始め、「松井の三冠」や「イチローの四割」予想など、まさに一億総評論家?スポーツから盆栽、趣味嗜好など他愛もない話に興じ、ストレスの発散を自然にしているのかもしれない。とにかく四季折々、サロン、・ザ銭湯での話題は尽きない。

 銭湯での楽しみ方のもう一つは、人間ウォッチング。

 下駄箱は決まった番号に入れ、脱衣ロッカーも然り、浴室に入れば決まった場所に座る、無意識かどうか定かではないが体を洗う順番も頭から洗う人、手から洗う人、湯ぶねの入り方にも、こだわりがあり、順番がある。おまけに銭湯に来る時間もほぼ決まっている。毎回、まわりを見渡すと同じ顔ぶれだからだ。湯ぶねに首までつかり、思わず”ヴェー”ともらす気持ちいいため息まで同じ、と念が入っている。姿形も人生もそれぞれ違っていても裸になればみんな同士じゃないかと親しみを覚え、心の中までほのぼのと暖まる。

 ほてった体に、軽くて涼しい浴衣をひっかけるこの気持ちよさ、まことに先人の知恵はすばらしい。「浴衣」のルーツは風呂からというのもうなづける。

 帰りに居酒屋で冷たいビールに枝豆、これが又、こたえられない。風呂賃としめて1,000円!かくしてささやかなる庶民の贅沢、でも、ちょっと粋でもあると自負している。

 我が家の狭いフロなんて入ってられない。

 活力源を求めて、又、明日も銭湯へ行くぞ!